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| バックパッカーとして、2年近く世界中を旅した福永さん。舞台の本場イタリアやギリシ
ャなどのヨーロッパ地域、アメリカ、タイ・ネパールを中心にアジア地域を歩き回った。
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| 昨年、「みふね舞台の会」が独自に企画・制作した、映画「佐賀のがばいばあちゃん」の上映会。主演の吉行和子さんを迎えての朗読&トークショーは、大盛況だった。
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御船町は、恐竜の化石が発見された町としても名高い。御船町役場の隣にある恐竜博物館では、恐竜のレプリカや貝類の化石などが展示されている。 |
熊本市の南東に位置する御船町では、町民がスタッフとなって創作・上演するオリジナル朗読劇が、注目を集めています。“新しいスタイルの舞台芸術”をモットーとした会の名前は、「みんなで創るみふね舞台の会」。元俳優の代表・福永啓さんの下、平成16年に立ち上げられました。毎年、町の広報誌で会員の募集が行われ、小学生からお年寄りまで約50人の会員が、プロの指導の下、朗読劇に取り組んでいます。

福永さんは、演劇を学ぶため東京の大学に進学し、卒業後は著名な劇団の俳優として活躍していました。しかし華やかな舞台を離れると、劇団が表現しようとするテーマと、自分の追い求めるテーマの間にギャップが生じ、悩み苦しみました。「庶民の生活に根差した、誰もが分かりやすく、楽しめる舞台劇の形があるのではないか」。理想と現実の間で、一度原点に返って自分自身を見直そうと決意した福永さんは、劇団を退団し、2年近い歳月をかけて世界の演劇や美術館などさまざまな文化を見て回りました。そこでは、ごく普通の人々の暮らしの中に、演劇文化が当たり前に存在し、日々の楽しみとして受け入れていたのです。
地元御船町に戻った福永さんは「自分の培った経験を町のために役立てたい」という思いを強くし、同会の設立を試みました。「日常に演劇文化が浸透していない町で気軽に楽しんでもらえる、一度は観たいと思う舞台劇とはどんなものだろう」と考え、切り口を探す日々。そんなある日、俳優も観客も町の人間で、気軽に楽しめる“町民参加型”の新しい舞台のスタイルが浮かびました。

「町民が演じるリアルな人間像こそ、人々の共感を得られる。俳優が地元の人だから家族や友人も見に来るだろう。そうすれば町の活性化にもつながる」と福永さんは考え、町の広報誌で会への参加を呼び掛けます。しかし、都会と異なり、舞台芸術に触れる機会が少ない地方での人集めは簡単ではなく、集まった参加者はわずか数人。そこで福永さんは、舞台音楽を地元の演奏家へ依頼し、また第一線で活躍している俳優にも出演を依頼しました。活動のすべてを町民に見せることで理解してもらい、参加者を増やしていったのです。
辛抱強く基礎固めに取り組む福永さんを支えたのは、舞台への情熱と古里への思い。「舞台芸術の素晴らしさを御船町の人々に味わってほしい。だから、一歩ずつがんばって来れたんです」と語る福永さん。主役はあくまでも“御船町の町民”です。

表舞台から、裏方のまとめ役への転向を“楽しみ”に変えた福永さん。前向きに舞台芸術の普及に取り組むその姿勢に共鳴し、協力者も増えました。今では、町民の参加も当初の10倍以上に増加。地元の学校や行政をはじめ、さまざまな俳優、関連機関との協力体制を着実に築き上げてきたからこそできたのです。「舞台劇に、町民が注目しているのを感じるようになったことがうれしいですね」。暮らしの中に“舞台芸術”という新たな文化が加わったことで、鑑賞する楽しみや演じる喜びが生まれ、その文化をもっと広めようという多くの人の動きが、町の活力源になっています。

現在、「みんなで創るみふね舞台の会」は地元の教育委員会と連携し、昨年秋に「郷土に学ぶ文化事業」を立ち上げました。このプロジェクトは、旧制・御船中学(現・御船高校)で多くの芸術家を育てた美術教師「富田至誠」の生涯をテーマに展開。町民とプロの俳優が演じる“朗読劇”、富田至誠の教え子で地元出身の世界的芸術家「浜田知明」氏の銅版画の記念展、大学の芸術学部と地元の小中学生が協力するワークショップの三つが企画されています。会員はみんな、仕事をしながら熱心にけいこに参加し、準備に大忙しです。「物語をつくるプロセスが楽しい」「違う世代の人たちとも一体感を味わえる」と舞台に対する思いもさまざま。そして、過去に参加した会員の多くが、「やり遂げたときの達成感」をもう一度味わおうと、遅くまで練習に余念がありません。

「3月28日(土)に行う朗読劇は見応え十分の自信作です。物語の主役・富田先生の生き方、それを受け継いだ教え子たちの志の高さに、胸を打たれない人はいないでしょう」と福永さん。古里に舞台芸術の花を咲かせようと奮闘する姿は、まぶしく輝いています。