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第356号

2008年4月24日

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週刊連載記事 老樹名木が語る「ふるさとの自然・歴史・暮らし」
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週刊連載記事 老樹名木が語る「ふるさとの自然・歴史・暮らし」
 老樹名木は、数百年あるいは数千年以上も地域の人々の暮らしとともに生き続け、語り継がれる物語や伝説をはぐくんだり、ご神木として敬われたりして、人々の心のよりどころになっています。これらは、先祖から受け継いだ県民の財産として、子孫に守り伝えなければならない宝です。熊本の自然やそれにまつわる人々の思いなどを織り込み、熊本の代表的な「老樹名木」を連載で紹介します。
 今回は、球磨郡水上村にある「小白水の石楠」と、同じく球磨郡水上村にある県指定天然記念物の「市房山のツクシアケボノツツジ」を紹介します。


小白水の石楠(球磨郡水上村)

■春を見事に彩る数千本のツクシシャクナゲ
ツクシシャクナゲ
花期   
4月下旬〜5月上旬
 新緑が色濃くなる5月、「しゃくなげ公園」が見ごろを迎えます。園内の杉木立の間に数千本のツクシシャクナゲがあり、透明感のある薄紅色の花を間近に見ながら歩きます。近くの民家に大きな古木があり、たくさんの花を付け、見事です。
■東の県境を飾るツクシシャクナゲなどの花
 市房ダムから球磨川本流を遡り、古屋敷の集落から椎葉に抜ける不土野峠越えの道を1キロメートルほど進んだ右側に白水阿蘇神社があります。神社を過ぎて2キロメートルほど行くと平谷公民館があり、県下一といわれる落差150メートルの白水滝の吊り橋への案内板が立っています。そこから案内板に従って椎葉への道から分かれて右に入り、道なりに車で10分ほど(約5キロメートル)登ると、滝と美しいシャクナゲ類の花が咲く「しゃくなげ公園」が見えてきます。
 周囲は大部分がスギの造林地になっていますが、山の中腹まで多数のシャクナゲ類が植栽され、薄紅色の花がスギの濃い緑色と映えて見事です。もともとここの山の中に自生していた約千本のツクシシャクナゲを広く知ってもらおうと、村が昭和53年(1978)に個人所有の休耕地に植えたのが始まりでした。それを中心に公園として整備してきたもので、平成5、6年ころからは個人の山林にも植栽し、現在では村が土地を買い上げて村有林として管理しています。
 大部分は水上村産のツクシシャクナゲで、一部には五家荘(八代市泉町)産の苗も移植されています。また、園芸化されている「西洋シャクナゲ」なども植栽され、現在約2千本のシャクナゲ類が育っています。樹齢千年といわれる自生のツクシシャクナゲをはじめ、これだけ多数のツクシシャクナゲなどがあるところは県内にはほかにないといわれます。花の見ごろは4月の終わりから5月の始めで、ちょうど大型連休のころが見ごろです。
 公園の敷地外ですが、近くの民家に公園のものよりはるかに大きいツクシシャクナゲの古木があります。もとの幹がどれか分からないくらい多くの株が立ち、株全体の周囲をざっと測ってみると7〜8メートルもあります。もとは1株なのに2千もの花を咲かせ、花盛りには圧倒的な迫力を呈します。
 「しゃくなげ」は水上村の村花に指定されていて、毎年開催される「しゃくなげ祭り」は、今年は4月27日(日)に行われます。孟宗竹を投げて飛んだ距離を競う「ひしゃくなげ」のイベントや、「しゃくなげ」の花のプレゼントもあり、踊りや歌も楽しめるとあって村内外から約3千人が訪れる行事になっています。
 シャクナゲは漢字ではふつう石南花(または石南)と書き、「しゃくなん」と言うのが正しい名前と思っている人もいます。石南花はオオカナメモチを指すのが、漢名(中国古来の正しい名称)の正しい使い方です。
■最も美しい花木・シャクナゲ類
 シャクナゲ類は常緑で光沢のある葉の先に大きな花を群れて咲かせる見事さから、世界で最も美しい花木と言われています。ヒマラヤや中国南部の雲南を中心に約300種もある大きな植物群で、日本もその中で重要な位置を占めています。我が国にはシャクナゲ、ハクサンシャクナゲ、キバナシャクナゲなどがありますが、九州に分布するツクシシャクナゲは本州・四国に産するシャクナゲの変種で、葉の裏面に褐色の毛が厚い層をなすほど密生するなどで母種と区別されます。
 シャクナゲ類の中でもシャクナゲは、ツクシシャクナゲも同じですが、深山幽谷の森林に生えます。葉は皮質で厚く、光沢のある濃い緑色で、枝の先に接して多少車輪状に着いています。丈夫な葉で3〜4年間は散らないことも大きな特徴です。昨年の枝先に着いた花芽から透明感のある淡紅色で大きな花を数個咲かせ、葉の緑色によく映えて美麗です。房状に咲く花が基部から咲き始め、頂部の蕾は濃紅色をしているので、そのコントラストはシャクナゲ類の中で第一といわれます。
 深山幽谷の植物で平地では栽培が困難なため、美しい花と知られていても日本では園芸化されませんでした。ヨーロッパには分布しない植物なので、大航海の時代以後に西洋人が発見して驚き、17世紀頃からヨーロッパで栽培の研究と改良が進められました。つまり、園芸植物としては非常に歴史の浅い植物です。そのようにして園芸化されたものが日本にも輸入され、多様な品種をひっくるめて「西洋しゃくなげ」(ロドデンドロン:本来はツツジ属全部を指す属名だが、園芸的にはシャクナゲ類だけに限定して使うことが多い)と呼んで栽培されるようになりました。しかし、夏でも冷涼なヨーロッパの気候に合わせて改良されたものですから、日本の夏の暑さには耐えられない品種が多かったようです。
■白水滝と吊り橋
 「しゃくなげ公園」の近くに白水滝(しらみずのたき)があります。白水滝は古屋敷の集落付近からもよく見える大きな滝ですが、雄滝と雌滝の二つに分かれていて、それぞれの滝に吊り橋がかかっています。雄滝にかかる白龍王橋は全長164メートル、雌滝にかかる白龍妃橋は全長120メートルで、それぞれ平成2年と平成元年に竣工しました。
 この白水の滝をご神体とする白水阿蘇神社が麓にあります。滝の化身が「龍神」といわれます。秋の大祭(9月23日)に奉納される白水神楽(水上村指定重要無形文化財)は、宮崎県椎葉村の小崎(こさき)地区に伝えられていたものと同じで、小崎出身の服部氏が第二次世界大戦後に古屋敷に移住し、満40歳の厄入りに神社に奉納したのが始まりです。現在は地元の青年たちに受け継がれ、10人の舞子により伝承されています。
 麓の古屋敷地区と宮崎県椎葉村の間の山あいを馬で繋いでいた「駄賃付け(だちんつけ)」の道が残っています。駄賃付けは、駄賃を貰って荷を馬で運ぶ仕組みで、昭和30年代まで行われていました。最近、県立大学環境共生学部の学生が聞き取り調査などで駄賃付けの仕組みとルートを解明しようとして、水上村側の道の潅木を切り払うなどの作業もしたそうです。

 近くには、水上村指定天然記念物の樹齢700年の「猫寺の木犀」、樹齢300年以上の「千ケ平八幡(せんがひらはちまん)の椋(むくのき)」や樹齢800年から1000年の「市房神社参道の大杉」、「市房ダムの桜」、「市房山のツクシアケボノツツジ 」があります。

※「樹齢700年の猫寺の木犀」はこちらから
http://www.kininaru-k.jp/bns/back_doc/10252007/roujyu.html

※「樹齢300年以上の千ケ平八幡の椋」はこちらから
http://www.kininaru-k.jp/bns/back_doc/02282008/roujyu.html

※「樹齢800年から1000年の市房神社参道の大杉」はこちらから
http://www.kininaru-k.jp/bns/back_doc/07262007/roujyu.html

※「市房ダムの桜」はこちらから
http://www.kininaru-k.jp/bns/back_doc/03062008/roujyu.html


[案内図]
所在地:
球磨郡水上村大字江代字平谷
 
国道388号の水上村役場から古屋敷方面に左折。古屋敷から白水方面に右折し、約2キロメートル進むと公園。
 
 


市房山のツクシアケボノツツジ(球磨郡水上村)
■山をピンク色に染めるツクシアケボノツツジ
ツクシアケボノツツジ
県指定天然記念物
花期   
5月上旬〜中旬
 市房山の7合目から山頂にかけて群生する、県指定の天然記念物です。5月中旬の満開の時期には、山麓からも山肌が薄紅色に染まるのが見えます。登山愛好家にとって初夏の特別な贈り物で、多くの人々が訪れます。
■初夏の市房山に登って観る価値あるツツジ
 水上村に初夏の訪れを告げる最大のものは、市房山(標高1,722メートル)の7合目から山頂にかけて山肌を大きく薄紅色に染めるように咲き誇るツクシアケボノツツジです。九州の高い山にだけ分布する希少な植物で、市房山のように群生するところは他になく、県の天然記念物に指定されています。
 この花は一目見ると虜になってしまうほど美しいと言われています。しかし、人工的には絶対につくりだせないこの薄紅色は、市房山の頂上近くで抜けるように青い空と、深い緑を背景にその花が揺れているからこそ、美しいのだということを忘れてはなりません。この花がそこにあるからと、この時期にしか見られない絶景を求めて、毎年多くの人が市房山を訪れます。山道に慣れていない人には少々きつい行程で、気軽には対面できない高嶺の花ですが、額に汗して登って観るだけの価値があったと誰もが実感する花です。
 湯山の集落から歩いていた昔と違って、今は市房山キャンプ場に車を駐めて整備された道を登るので、ずいぶん楽になりました。山登りの経験の少ない人は急がずに、時間をかけてゆっくりと景色の変化を楽しみながら登るのが基本です。参道に立ち並ぶ大杉の並木を、1本1本の特徴のある根の張り方や枝振りを観察しながら登ると、1時間ほどで4合目の市房神社に着きます。すぐ横にきれいな水が流れていますから、そこで手を清め、喉を潤し、神社に参拝して登りましょう。市房山そのものが神様ですから、昔は身を清めて登った山です。
 神社からしばらく急斜面を登りますが、このあたりはよそではみられないツガの純林が見事です。1時間半ほど登った6合目あたりから、世にも美しいツクシアケボノツツジの花がちらほらと見えてきます。そして7〜8合目まで来ると、ここまであきらめずに登ってきてよかったと、心の底から思えます。このあたりが、このツツジが最も豊かに群生しているところで、このように一面に咲くから麓から山肌の色が変わるのが眺められるのです。
■山頂からの眺望
 この後は、このツツジが誘いかけるように咲く道を、山頂まで登りきることができます。山頂から見渡す景色も絶景で、眼下に人吉盆地が広がって南には白髪岳など宮崎県も含めて肥薩国境の山々、北には五木・五家荘など九州中央山地の峰々が連続しています。天気がよければ、遠く桜島や開聞岳までをはっきりと望むことができます。
 山頂でしばらく休憩したら、西からの登山道に戻らずに北尾根を下ると、5分くらいのところに心見橋(こころみのはし)があります。岸壁の間に大岩がかかっていて、心悪しき者は渡れない難所ということで、心を見る橋という意味です。状況をよく観察し、自ら省みて渡る自信を持てない人は、付近の展望地点からここまで登ってきた西斜面が全部見下ろせますから、その大きな眺望を十分に楽しんでください。登山口から神社までの杉並木もはっきりと認められます。健脚の人は、二つ岩に向かう約2時間の縦走ルートを以前は楽しめましたが、現在は崩壊しているところがあって、行けないのが残念です。昔も、相当な険路であるうえ二つ岩から湯山に下る道が分かりにくいので、事前に十分な計画と準備をしてから実行したものでした。
 帰りは登ってきた道を下ります。ずっと下り道ですが、山は下りが、登りよりも用心しなくてはなりません。急ぐと膝を痛めますし、スピードがつくと山道から飛び出す危険もあります。ゆっくりゆっくりと心掛けて下ることが大切です。
■九州特産の日本で一番美しいツツジ
 ツクシアケボノツツジは九州特産のツツジ科の落葉低木で、本州・四国に分布するアケボノツツジの変種です。アケボノツツジの名は、淡紅色の花の色をほのぼのとした夜明けの色に例えたものです。5月中旬、樹高3〜4メートルの枝先に直径4.5〜5センチメートルの花を、葉が開く前に次々に咲かせて見事な花盛りになります。日本で一番美しいツツジだと言われていますが、自生地を訪れなくては見ることができません。市房山のほかにも二上山や大崩山などが名所として知られていますが、熊本県民の身贔屓かもしれませんが、この市房山のものが最高のように思います。希少な植物で環境省のレッドデータブックでは絶滅危惧II類(VU)に指定されています。
 ツツジ属は世界的に美しい花木として知られ、園芸化も盛んに行われています。園芸植物としてはヨーロッパを中心で改良が進められたシャクナゲ類と、日本で改良が大きく進んだサツキやそれらから西洋風に改良されたアザレアなどのツツジ類が中心になりますが、園芸化されなかったものの中にも美しい花木がたくさんあります。というよりも、栽培が困難だったから園芸化が進まなかったと言うべきかもしれません。その代表とも言えるのがアケボノツツジの仲間でしょう。
 なお、これら観賞用に利用されるツツジ属のほかにも、ツツジ科にはアセビ・ネジキ・ドウダンツツジ・ホツツジ・エリカ・ブルーベリーなど生活に関係深い樹木がたくさんあります。


[案内図]
所在地:
球磨郡水上村大字湯山
 
国道388号を湯山温泉から右折。市房山キャンプ場より林道を少し行くと、大杉並木の参道そばに駐車場がある。4合目市房神社より上にこの花は咲きます。群生は7合目あたり。
 


本文中の写真および地図については
(財)くまもと緑の財団発行の
「くまもとの老樹名木ガイド」より転載
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