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土を練り、パスタを食べる?島時間が流れる異色の窯元へ

2020.04.23

道端で猫がお昼寝タイム
島をつつむ“のんびり”ムード

熊本市の中心部から車で約1時間30分。上天草市大矢野町の維和島(いわじま)は「千束蔵々(せんぞくぞうぞう)島」とも呼ばれ、天草四郎生誕の地とされている。島内には「天草四郎が通ったかもしれない道」と名付けられた散策ロードがあり、道端では猫が昼寝。海辺では島のお母さんたちが井戸端会議。島一帯をつつむ“のんびり”ムードが訪れた者の心を和ませる。

橋の向こうに見えるのが維和島(いわじま)。クルマエビの養殖が盛んで、アジやキスなどの釣り場としても人気。

島の頂上付近には桜の名所「維和桜・花公園」がある。その公園の片隅にポツンと立つのが目的地の『蔵々窯』だ。ジャズのレコードやクラシックギターが飾られたギャラリーはまるでカフェのような雰囲気。窯主の許斐(このみ)良助さんに陶芸体験 を予約していた者だと告げると、許斐さんは挨拶もそこそこにコーヒーのドリップを始めた。

(上)廃校になった島の小学校を移築した工房兼ギャラリー。葉擦れの音と小鳥のさえずりが心地よく響く。
(下)長身ですらりとした許斐さん。一見クールな印象を覚えるが、実はユーモラスなおしゃべり上手!

天草陶石らしくない磁器
温もりを感じる作風

許斐さんはドリップケトルを片手に語り始めた。「この島で生まれ育ち、幼い頃から物づくりが好きでした」。チューインガムをこねて塑像(そぞう)を作ったり、レンガを削って彫刻をしたり。だから自然な流れで福岡の大学で美術を学び、卒業後は地元の小・中学校で美術の教員となったそうだ。転機となった出来事は、校内の美術クラブで使う粘土を天草にある窯元の『丸尾焼』へ買いに行ったこと。職人たちが楽しそうに仕事をしている姿が、許斐さんに弟子入りを決心させた。『丸尾焼』で3年、熊本市内の『山幸窯』で半年修行し、現在は独立して30年目。開窯当初は「天草陶石で白くない器を作るなんて」と変わり者扱いされたが、陶芸展で受賞を重ねることで作風が認められるようになったのだ。

淹れたてのコーヒーに添えられた小さなお菓子、2種のビスコッティとチョコも許斐さんの手作り。

天草陶石は天草で採掘される鉱石で、磁器の主原料として用いられる。日本の陶石生産量の約8割が天草陶石で、濁りのない凛とした白色に仕上がるのが特長。その高い品質はかつて平賀源内(ひらがげんない)が「天下無双の上品」と評したほど。陶石は純度が高いものから順に特等から4等までランク付けされ、鉄分含有量が増えるほど等級が下がる。天草陶石を地場産業とする天草では白を追求する窯元も多い中で、許斐さんが好むのは不純物とされる鉄や砂を含んだ天草陶石。焼きあがる器は陶器のように温かみのある見た目だが、指で弾くと確かに磁器特有の澄んだ音がする。

許斐さんの作品の一例。ほかにもユニークな表情のオブジェや切り株のような大皿などどれも個性的。

メインはパスタか陶芸か
料理好きによる陶芸体験

会話に熱中してふと気付くとお昼どき。陶芸体験より先に、許斐さんが用意してくれていたパスタランチをいただくこととなった。パスタのレパートリーは200種類以上で、この日のメニューは「カレーパスタ」。八角やクミンが入ったスパイシーな甘口カレーがフェットチーネによく絡み、ココナツファインが食感のアクセントに。うわさどおりのおいしさだ。陶芸体験にサービスでパスタを付け始めたのは5年ほど前。ギャラリーの周囲に飲食店がないため、自分の昼食を作るついでに参加者の分も用意したのが始まりだったそう。食事をしながら許斐さんは「最近は土よりも小麦粉をこねている」とポツリ。「ビスコッティやフォカッチャなど“オマケ”で出す料理を作るのに忙しく、作陶をする時間がありません」といたずらっぽく笑う。

(上)昼食を調える許斐さんはさながらカフェのマスター。本格的なカフェ営業も検討していると話す。
(下)晴れた日は工房横の広場でランチを。水にレモンを浮かべるひと手間に許斐さんの料理愛を感じる。

陶芸教室はひとしきりおしゃべりを楽しんで、互いの距離がぐっと近づいてから。体験内容は“たたら”か“ろくろ”が選べ、たたらは板状の土の形を整えて作る初心者向け。ろくろは回転台を使って土を形成するため難易度が上がるという。今回は、許斐さんが師匠なら上手くいくはずだとろくろを選んだ。ろくろの場合はあら揉みからスタート。その後菊練りで土をまとめ、ろくろへ移して延べ上げ、延べ下げを繰り返しながら形作っていく。初めに作りたい器や盛りたい料理のイメージを伝えておけば、許斐さんが必要に応じてサポートしてくれるので安心だ。

「プロが手助けしすぎると体験者の個性が消えてしまうから、手助けは最小限に」と許斐さん。

体験1回で使える粘土は約1キログラム分。小皿を数枚作ってもよいし、大皿1枚に狙いを絞るのもあり。許斐さんのおすすめは皿か鉢で、湯のみやマグカップは上級者向けとのこと。成形後の作業は許斐さんにバトンタッチ。3日ほど自然乾燥させ、素焼きを8時間、さらに15~16時間の本焼きを経て出来上がる。作品は受け取りか着払いでの発送が選べ、体験から約1カ月後を目安に完成品を手にすることができる。自宅で旅の余韻を思い起こさせてくれるのも、陶芸体験の魅力である。

実際に体験で製作した器2点。お褒めの言葉はいただけなかったが、許斐さんの指導で我ながら会心の出来となった。

蔵々窯
DATA

蔵々窯

  • [住所]熊本県上天草市大矢野町維和上1005
  • [電話番号]0964-58-0990
    ※訪問前に要電話。また作陶中は電話を取るのに時間がかかるため、長めに呼び出しを
    ※陶芸体験の予約はfacebook(https://ja-jp.facebook.com/ryosuke.konomi.3)またはInstagram(@ryosuke_konomi____potter)からも可能
  • [営業時間]10:00~日没
  • [定休日]不定
  • [体験料金]3,000円(税込、パスタ・コーヒー付き)
  • [URL]http://www.tot3.com/zozogama/