日本三大松島の一つで、いくつもの島が点在する多島海を眺望できる上天草市松島町。大海原にカヤックでこぎ出せば、そこは海と自分以外何も存在しないかのように感じられる。今回、海上散策をナビゲートしてくれたのは、上天草市松島町を拠点にカヤックと天草の海の魅力を発信し続けてきた『アンプラグド』の代表・船原英照(ふなはらえいしょう)さん。知られざる天草の魅力を体感する、カヤックの旅をリポートしよう。

日常が非日常へ変わる。 カヤックから眺める世界

『ミオ・カミーノ天草』の海側にあたる「シーサイドテラス」の一角を借りて、活動している船原さん。海辺に並ぶ、カラフルなカヤックたちが目印だ。

真夏のような強い日差しが降り注ぐ梅雨の晴れ間に訪れたのは、4号橋(前島橋)のたもとに、昨年11月にオープンしたばかりのアウトドア複合施設『ミオ・カミーノ天草』。「海上の気温は、陸地の約2ヶ月遅れと言われています。今日のような日差しの強い日でも、海の上を吹く風は気持ちがいいですし、想像以上に過ごしやすいんですよ」と話すのは、『ミオ・カミーノ天草』の一角を借りて、カヤックで海上探訪をナビゲートする『アンプラグド』の船原さん。

まずは、カヤックの基本となる動きをレクチャーしてもらう。「パドルをこぐときは、水面に対して直角に。それだけ心掛ければ、カヤックは自然と進んでくれます」と話す船原さんの動きを見ながら、前進、方向転換、停止などのパドル操作を学んだら、総距離約4キロの海上散策のスタートだ。

『ミオ・カミーノ天草』の外観。ボルダリングやサイクリング、カヤックなどを思いきり楽しんだ後は、シャワーで汗を流してバーベキューやカフェでおなかを満たそう。
建物の中には更衣室や有料のシャワーも設置されている。カヤックに乗る際は水にぬれるので、着替えとウォーターシューズは必須(一部レンタルもあり)。
天草五橋も、カヤックから見るとこんなにも壮大に映るから不思議! 

カヤックに乗り込むと同時に視界に飛び込んで来たのは、迫力ある4号橋(前島橋)の佇まい。思わず見とれるアングルに、これから始まる旅への期待感が高まる。最初はカヤックが思うように進んでくれなくても“こんな景色をもっと見たい! ”と、思いながらパドルをこぐうちにコツをつかめてくるから、海の上の冒険は一層楽しくなってしまうのだ。

海上から眺める上天草の風景。なだらかな山の景色が続くかと思えば、反対側は険しい崖続きだとか。多彩な表情を持つ天草は、改めて魅力的な場所だ。

コースもトークもアドリブだらけ! 海の達人が導く、唯一無二の旅

潮の満ち引きで海面の高さが最大6~7メートルも変わる松島の海。大潮の満潮と重なった取材日は、刻一刻と変わる自然の力を全身で感じることができた。

上天草の歴史をひもときながら、興味深い話しをいくつも投げかけてくれる船原さん。カヤックをこぐ手を時折緩めては、船原さんのガイドに耳を傾けるのもこの旅の醍醐味(だいごみ)だ。「上天草にまつわる本や資料は、本屋や図書館で見かけると必ず目を通すようにしています。何より地元に長年住まれている方の話は貴重な情報源です。最近ではSNSを活用して、情報収集もします」と持ち前の好奇心で上天草のことを調べ続けている。「年齢や性別にとらわれず、その日のメンバーの興味関心に応じて、日々コースや話す内容を変えています」と船原さん。「雲や風、潮の満ち引き、季節や気温、そして参加してくださる方。一日として同じ日はないから飽きることはない」と言い切る船原さん。船原さんのトークや明るい人柄、そして上天草の美しい海に魅せられ、今では遠方から赴くリピーターも多い。


シーカヤックに出合って、人生の優先順位が変わった

サラリーマン時代の船原さんは、毎週金曜日にカヤックを車に積んで出勤し、仕事帰りにそのまま海へ直行。週末は無人島で過ごすのが定番のスタイルだった。

「今の活動をする中で心掛けているのは、誰よりも自分が楽しむこと」と話す船原さんに、現在の活動を仕事にすると決めたきっかけを尋ねた。「元々アウトドア好きだった僕は、ダイビングに出合って以来、リバーカヤックなど水辺のハードなアクティビティに夢中になりました。ところがある時、リバーカヤック中に怪我をしてしまったんです。そこで、リハビリのつもりでシーカヤックをはじめたところ、全ての楽しみがここに詰まっていることに気付いたんです」と目を輝かせて話す船原さん。カヤックで無人島へ渡り、キャンプをしたり、釣りをしたり。時にはカヤックでなければ降り立つことのできない知られざるスポットを発見したり。「当時、サラリーマンでしたが、そこで“お金とは? ”“働くとは? ”と延々と考え続けたことは、自分の中で価値観が大きく変わった出来事でした」と船原さんは当時を振り返る。

今回案内してもらった島は、通称“シェルアイランド”と呼ばれる無人島。大量の貝殻が堆積してできた島では、流れ着いた流木がベンチの代わりに。

それからほどなくして独立した船原さんは、2003年に『アンプラグド』の活動をスタート。17年経った今でもその頃の情熱が冷めることはない。「僕のミッションは、みんなのストレスを海の上で解放すること。シーカヤックの活動を始めて17年、どんな日も、どんな人も、最後はみんな子どもみたいな笑顔を見せてくれる。それが僕にとって一番の喜びです」。

子どものような心を取り戻したくなったなら、すぐそばにある小さな冒険の扉を開いてみてほしい。

上空から見た無人島シェルアイランド。360度海に囲まれた無人島で過ごすひとときは、はるか遠くの異国の地に足を踏み入れたかのような錯覚を覚える。
DATA

unplugged (アンプラグド)

所在地|熊本県上天草市松島町会津6215-17

電話番号|090-8356-3577

営業時間|9:00~12:00、13:00~16:00 ※最大20名

定休日|無休 ※『ミオ・カミーノ天草』は水曜休館