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“がんばれ”という言葉より、“がんばっている”姿を見せたい。

2020.04.30

 後藤さんが新規就農をしたのは、2018年のこと。現在は珈琲を中心に、パインナップルやパパイア、バナナなど栽培している。教員時代に培った知識と経験を生かし「南阿蘇の観光と農業の活性化」をモットーに活動を続けている。珈琲を栽培する肥料は、馬フンや阿蘇の野草の堆肥など、阿蘇にゆかりのあるものを多く活用し、環境維持にも注力する。「珈琲には、不思議と人を集める力がある」と話す後藤さんの言葉通り、取り組みに共感した人々が南阿蘇はもちろん国内外からも訪れているという。また、今年の4月からはオーナー制度を導入。後藤さんが種から育てた63本の珈琲の木は、すでにキャンセル待ちの状況だ。

元々、高校教師として農業を教えていたという後藤さん。豊富な知識と経験を生かし、南阿蘇の新たな特産物となる作物づくりに挑戦している。

「環境さえ整えれば、どんな作物も育てられます」と、自ら南阿蘇の特産品を生み出そうと活動を続ける後藤さんに「そもそも南阿蘇は、珈琲の栽培に向いているのですか? 」と問うと、「向いているか向いていないかと言えば、向いていないでしょう」とキッパリ。「本来、珈琲は25℃くらいの気候がベストなんです。そう言った意味で言うと、冬に氷点下になる南阿蘇は向いていません。けれども、冬場の環境を整えることさえできれば、珈琲の木自体は丈夫なので栽培は可能です」。実際に、後藤さんの元で週に2回珈琲栽培を学んでいるキリマンジャロ出身のオーガストさんの地元では、標高2500メートルの地にありながら、露地栽培で珈琲を育てていたという。「南阿蘇で作る珈琲は、朝夕の寒暖差の影響で、糖度が上がり、日数がかかることで、実が引き締まります。また、与える水の量を調整することで、香りと甘みが強くなります。鮮度がいいため、フルーティで後味がすっきりしているのも大きな特徴です」。

(上)“珈琲チェリー”と呼ばれる珈琲の実は、赤く色づき少し実が柔らかくなった頃が採り頃。中には“珈琲ビーンズ”と呼ばれる種があり、さらにその中に“生豆”が入っている
(下)見慣れた珈琲豆のイメージとは異なる、白く可憐な珈琲の花。「花が開いてから約8ヵ月もの時間をかけて珈琲は完熟します。それだけエネルギーが凝縮されているということですよね」と後藤さん

 後藤さんが南阿蘇の農業に着目したのは、教員時代に阿蘇に勤務したことがきっかけ。「自分たちの手で育て、完熟したものを食べる。それが身近な一番の贅沢だと実感しました」と当時を振り返る。「そうした視点で周りを見渡してみると、珈琲を好む人が増えている中で、そのほとんどが輸入物。一昔前の日本では、わが家で採れたお茶を囲んで縁側で茶飲み話をする、という風習がありましたが、これから高齢化が進む中でお茶が珈琲に代わる可能性もありますよね? 過疎の山間地は珈琲栽培にも向いていますし、人と地域を結ぶツールとしても珈琲に可能性を感じたんです。南阿蘇には美味しい水もあるし、人々が生き生きと暮らす地域は、他から見てもきっと魅力的です」。

柔らかい珈琲の新芽は、焙煎してお茶に加工しても癖がなく美味。「天ぷらにしても美味しいんですよ」と原木から育てるからこそのアイディアも披露してくれた。

「将来、阿蘇イコール珈琲のイメージを根付かせ、南阿蘇の活性化に取り組みたい」という夢に向かってまい進する後藤さん。「珈琲の木のたくましさには、学ぶことが多いです」と語る後藤さんの農場に、かつての教え子たちが訪れては「先生には負けられん! 」と言って帰っていくとか。「“がんばれ”という言葉より、“がんばっている”姿を見せられることがうれしいですね」と確かめるように話す後藤さんは、珈琲の木とともに大切にしたい想いを育てている。

これまで後藤さんが実証してきた栽培方法を生かし、現在4軒の農家が南阿蘇で珈琲栽培に取り組んでいる。キリマンジャロから結婚を機に阿蘇に移住したソジャウ・オーガスト・バルタザリさん(写真右)も、後藤さんの元で農業を学び、近い将来、南阿蘇で珈琲農家として独立することが夢なんだとか。

訪れる人の癒しを与える
パンを作り続けたい。

 南阿蘇のカルデラの中に佇む「パンダイゴ」は、地元の人や観光客など多くの人から愛されるベーカリーだ。パンのこだわりは、玉名市の小麦粉を中心に配合した天然酵母パン。「天然酵母を使用することで、つくる工程は時間がかかりますが、もっちりとした小麦の食感が際立つ旨味の濃いパンを作ることができます」と話すのは、店主の上道大吾さん。元々、東京のベーカリーで修業をしていた大吾さんは、子育てをきっかけに奥さんの地元である南阿蘇に移住を決意。南阿蘇で自身のベーカリーを開業した。

阿蘇のカルデラを眺める「パンダイゴ」の外観。熊本地震で復興を遂げ、新たな場所でスタートした。

木の温かみのある空間には、大吾さんの想いの詰まったパンが並ぶ。早い時間に売り切れてしまうこともしばしば。
一番人気は、もちもち食感のクロワッサンやきなこ味の揚げパン。食事パンとして重宝するバゲットもファンが多い。

「東京から熊本へ移住してきた当初、一番驚いたのは水のおいしさでした。夜は街灯もないため、流れ星や星がはっきりと肉眼で見えるほど空気が澄んでいて、写真も撮れる。そんな場所で毎日パンを提供できる環境は、つくづく恵まれているなと感じました」と大吾さん。カルデラや山々に囲まれた南阿蘇は、太陽が東京よりも早い時間に沈む。その景色も「まるで外国に来たような気分」と声を弾ませる。

野菜や小麦など、熊本の食材をふんだんに使った大吾さんのパンは、地産地消がモットー。
「熊本地震や阿蘇山の噴火など、さまざまな社会情勢の影響を受ける中で、どんな環境にも柔軟に対応できる自分でありたい」と大吾さん。

阿蘇の自然に心底魅了された大吾さんに、日々のパン作りで大切なことは? と問うと「生地を作る過程でじっくりと時間をかけてあげることですね。一方で気温や湿度など、日々異なる外的要因に柔軟に対応しながら、常に一定の環境で作ることを心掛けています」と語ってくれた。現在は店頭に、常時30~40種類ほどのパンが並ぶほか、最近では県外への発送、震災をきっかけにスタートしたTV出演やパン教室の講師など活躍の場を広げる大吾さん。「熊本地震で被災して以降、パン作り以外のことにも挑戦し、少し視野が広がった気がします。今はいい意味でこだわりを持ちすぎず、街の人が大好きな南阿蘇のために、自分にできることがあるならば何でもしたい、と思うようになりました」と穏やかな口調で語る大吾さん。続けて「南阿蘇に住んでいる方々が、南阿蘇を愛しているところが好きです。南阿蘇の魅力を語り出すときりがないですが、自分もまだまだ知らないことはたくさんあります。そんな中でこの場所は、人々に癒やしを感じてもらえる存在になれたらうれしいですね」と抱負を述べる。
南阿蘇への熱き想いを胸にパンを作り続ける大吾さんの挑戦は、まだまだ終わらない。

学生編集部のみなさん
取材:永田拓巳(熊本県立大学4年)、鬼塚悠里(熊本学園大学3年)、河瀬陽菜(熊本県立大学3年)
写真:島田凜太郎(熊本県立大学3年)