今回の熊本漫遊記で学生編集部が訪れたのは、宇土市と宇城市。オーダーメイドの家具作りをしている「暮らしの手しごと くらしごと」の中島さん夫妻と、戸馳島(とばせじま)でレストランを営む「食卓 mano」の村上さん夫妻の二組の夫婦を訪ねた。奇遇にも、二組ともご主人は地元出身、奥さまは県外出身という組み合わせ。それぞれが抱く、「地元を盛り上げたい」という思いとは?

日々の暮らしに、手仕事の温もりを

ご主人の実家にある古い小屋を改装した工房で、オーダーメイドの家具を製作している「暮らしの手しごと くらしごと」の中島徹さん、美香さん夫妻。夫婦二人三脚でどのようなこだわりを持ち、家具作りに臨んでいるのかを知るべく、工房を訪問した。

徹さんと美香さんの夫婦で、オーダーメイド家具作りに取り組む。

宇土市の昔ながらの住宅街の中にある大きな小屋。中に入ると、たくさんの木材やさまざまな工作機械が所狭しと並んでいる。ご主人の実家の敷地内にあるこの仕事場は、養蚕(ようさん)や農機具の倉庫として使われていた古い小屋をリノベーションしたものだそうだ。「初めてこの建物を見たとき、昔ながらの太い梁(はり)がとても気に入って、『ここで家具を作りたい』って夫に提案したんです。」と、神奈川県出身の美香さん。ここで、夫婦一緒に家具作りを行っている。

農機具小屋時代の梁や柱をそのまま残した工房。

「子どもの時からテレビのリモコンを分解することなどが好きで、ものづくりに興味があった」というご主人の徹さんは、宇土市出身。崇城大学芸術学部でインテリアデザインを学ぶ中、「『デザインすること』と『作ること』をつなぐ存在である家具職人になりたい、という思いが強くなったんです」と徹さん。そこで、卒業後は岐阜県・飛騨高山市にある家具作りの訓練校で修業した。同じく家具職人を目指していた美香さんと出会ったのも、この訓練校だったという。その後、飛騨高山市の家具メーカーに就職し、美香さんと結婚。結婚後、神奈川県で家具の仕事をした後に宇土市に帰り、2人の子どもにも恵まれた。
「子育てと仕事の両立がしやすい環境を求めていたというのもありますが、何より『地元で何かをやりたい』という思いが強かったですね」と徹さんはその理由を語る。熊本でも住宅メーカーなどに勤務した後、2016年、ついに念願の家具職人としての独立を果たした。

家具のほか、コースターやトレイ、時計などの小物の製作も行っている。

現在は、お客さまの要望に応じて、机や椅子、小物まで幅広い家具を作っている。使う材料は、ホワイトオーク・チェリー・ブラックボードなどの節や木目が豊かな広葉樹や、経年変化が感じられる金具など。無垢材の木肌や木目の表情がしっかり感じられ、手仕事ならではの丁寧さや温かみが感じられるテイストが特徴だ。
「家具作りで一番こだわっているのは、作り手の主張が出過ぎないことです。それよりも、お一人お一人のオーダーに丁寧に応えて、お客さまのお住まいや生活の一部に自然と溶け込むシンプルで素朴なデザインを理想としています。もちろん、機能性や耐久性などの品質にもこだわります。私たちの家具は、購入いただいてからがスタート。ケアや手直しをしながら、長く長く、じっくりと育てていただける、そんな家具になっていると思います」(徹さん)。
市販品では難しい形状やサイズ指定のオーダーも多く、お客さまの自宅に行って寸法を測るところから家具作りが始まる場合もあるという。2人で話し合いながら製作を進めるが、美香さんが主に細かなデザインや加工を、徹さんが寸法計測や図面起こし、家具の修理などを担当することが多いそうだ。1つの家具が出来上がるまで、早くて2〜3週間、長くて1〜2カ月かかる。口コミでの広まりやホームページからのオーダーもあり、家具の納品先は熊本県内から、九州、関東圏にまで及ぶ。

家具に合わせて木の大きさを変えていく。製材を行うところから家具作りの工程がスタートする。
カンナを調整する美香さん。材料となる木をカットし、削り、つなぎ合わせるなどの工程を経て、家具が完成する。
作業場には、木材や家具作りに欠かせない道具が並ぶ。

「無垢材に触れるのが好きです。特に製材をしたまっさらな木肌にオイルを塗って、色が変わる瞬間を見るのがたまらない」と家具作りの魅力を語る徹さん。多くの人に、木材に触れる喜びや作る楽しさを伝えたくて、バターナイフや箱、箸などの小物作りのワークショップも開いている。さらに、マルシェイベントなどにも出店しており、「宇土市に家具職人がいるなんて知らなかった」と地元の人に喜ばれることも多いそうだ。
今後は、いまだリノベーション中の工房を完成させることが目標。「ここに人が集える空間を作って、ワークショップなどを行えるようにしたいですね。大きなキャンバスを置いて地元の子どもたちに絵を描いてもらったり、工作教室を行ったりするのも楽しそう。地元・宇土市のために、自分にできることで貢献をしていきたい」と抱負を語ってくれた。ヴィンテージなど古い家具の修理もできる徹さんと、縫い物の作品づくりにも挑戦したいという美香さん。丁寧で温かな手仕事の輪が、ここ宇土市の工房から多くの人へと広がっていくに違いない。

DATA

暮らしの手しごと くらしごと

所在地|熊本県宇土市笹原町247―1
電話番号|080-3656-0310
営業時間・定休日|不定(お尋ねを)
暮らしの手しごと くらしご のホームページはこちら(外部リンク)
 


食で伝える地元の魅力

戸馳島(とばせじま)で完全予約制のレストランを経営している村上さん夫妻。地元の食材を生かしたコース料理が人気の同店は、インスタグラムに載っているお店の雰囲気や料理・スイーツなどが、とてもオシャレだ。その雰囲気に魅かれて、どんなお店なのかを知るべく、訪問した。

夫婦でイタリアンのレストランを経営している村上さん。現在は、完全予約制でコース料理を提供している

「食卓mano」は、宇土半島の西南端に浮かぶ小さな島、戸馳島にある。海と山の自然に囲まれた、時間の流れがゆるやかに感じられる景観が魅力のこの島は、洋蘭の栽培も有名。さらに、戸馳島がある宇城市は、魚介やかんきつ類など、おいしい食材も豊富である。「そんな島の環境を生かし、宇土半島や天草の無農薬・有機野菜、大自然の中で育てられた鳥や豚なども取り入れながら、心と体が喜ぶようなお料理を作っていきたいと思っている」と語るのは、オーナーの村上卓磨さん。奥さまの朝子さんは、お菓子作りを担当している。

自らの料理について生き生きと語る卓磨さん。

宇土市出身の卓磨さん。高校・大学時代に地元のそば店でアルバイトをしていたことをきっかけに、「自分もそばを打ちたい」と料理人を目指す道へと進んだ。大学卒業後は、福岡や京都で和食店などで経験を積んだが、イタリア料理の名店で修業を重ねたことで、イタリア料理に興味が広がっていったという。「そばを打つはずが、いつのまにかパスタを打っていたんですよ(笑)」(卓磨さん)。京都で洋菓子職人として働いていた朝子さんと出会ったのもこの頃だった。
「独立してお店をやるなら、自分の故郷がある宇土半島のどこかで」、そんな思いをずっと抱いていたという卓磨さん。熊本に戻った後、縁あって戸馳島のこの場所と出合い、2017年に「食卓mano」を開いた。森が大好きな朝子さんにとっても、自然豊かな戸馳島は、とても魅力的な立地だったそうだ。

地元でとれたショウガを使ったジンジャーシロップや、果物のコンフィチュールなどの販売も

レストランで卓磨さんはイタリア料理、朝子さんはデザートや焼菓子を担当。「食材との出合いを大切にした料理・お菓子作り」をコンセプトに、宇土半島や天草で手間暇かけて育てられた食材を厳選し、ふんだんに使っている。完全予約制のランチは「小さな料理・前菜・パスタ・メイン料理・デザート・自家製パン・カフェ」の月替わりのコース。地方の食材をその土地ならではの製法で調理するイタリア料理の伝統の技術をベースに、卓磨さんが感性のままに一皿一皿手がけていく。時には、お客さまの目の前で最後の仕上げを行うこともあるのだとか。料理が出てきたときの驚きや感動を大切にしているため、その月の料理の内容はあえて事前告知しない。
「旬の食材の味わいを引き出すのはもちろんですが、お皿の上に、私が感じたその季節の風景を描き出すような料理作りに取り組んでいます。舌だけではなく目や香りなど、五感全体で季節のものの魅力を感じてもらえれば」と語る卓磨さん。一方で、朝子さんのお菓子は素朴でシンプル、かつ素材の風味が引き立つ味わいが持ち味。特に地元産の無農薬レモンを使ったレモンケーキは人気の一品だ。「レモンは、無農薬栽培にストイックに取り組んでいる農園から取り寄せているのですが、香りがとても素晴らしいんです。この香りを最大限に生かせるお菓子にしたい、そんな思いで作っています」。朝子さんのお菓子は、店頭でも購入できる。

料理を盛り付けるお皿も、宇土半島や天草の窯元や木工作家にオーダーしたもの。料理へのこだわりが細部にまで宿る。(写真提供:食卓mano)

レトロな空間も魅力のレストラン。奥の席には、植物に関する書物もたくさん並んでいる。
敷地内には洋蘭の直売所があるほか、店舗周辺にもさまざまな植物が植えられている。店内にもいろんな種類の洋蘭があちこちに。

料理やお菓子に使う地元の食材は、夫婦が地元の農家から直接仕入れている。農家のもとを訪れ、食材について話し込んだり、畑で季節や食材の自然な色、香りに触れることで、新しい料理の発想につながることもあるそうだ。「夫は農家さんのところへ出かけたら、なかなか帰って来ないんですよ」と微笑む朝子さん。「宇土半島や天草には、素晴らしい農産物を作っている農家さんが、たくさんいることを知りました。農家さんに会いに行って話を聞くのが本当に楽しくて、いつも時間を忘れてしまいます(笑)。」と朝子さん。「私たちの仕事は、農家さんたちがいないとやっていけません。手間暇を惜しまず、おいしい食材を作ってくれることにとても感謝しています」と卓磨さんも続けた。
今後はSNSなどで、お店のことだけでなく、地域の食材の魅力まで含めて、積極的に情報発信をしていきたいというお二人。「より深く、地元の食材を生かした料理やお菓子を探求し、お客さまに提供できたらいいですね。毎月来てくださるお客さまもいるので、何度来ても楽しんで頂けるメニューを提供できるよう励んでいきたいです」と語ってくれた。
来店してからのお楽しみである、「食卓 mano」の料理。直接見て、楽しんでもらいたいというお二人の思いが込められている。ぜひ、周辺の花や緑とともに、のんびり楽しい時間を過ごしてほしい。

お店の外観。「若宮海水浴場」にも近く、自然に囲まれてゆったりとした時間をすごせるスポットだ。

【取材メンバー】
・永田拓巳(熊本県立大学4年)
・島田凜太郎 (熊本県立大学3年)
・甲斐舜士(熊本県立大学3年)
・小林響(熊本県立大学3年)

DATA

食卓mano

所在地|熊本県宇城市三角町戸馳373-3花のがっこう内
電話番号|0964-31-0263
営業時間|12:00~17:00
定休日|金・土・日曜、他 (HP参照)
食卓manoのホームページはこちら(外部リンク)