くまもと復興レポ MINNA-GENKI
#06 県立熊本工業高等学校

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創造的復興を目指すくまもと復興レポ「MINNA-GENKI」の第6回は、平成28年熊本地震からの復興に至る経験を経て、災害復興に貢献できる人材育成のカリキュラム創設に取り組む「熊本工業高等学校」をご紹介します。

熊本市中央区上京塚町にある「熊本県立熊本工業高等学校」。昨年創立120周年を迎えた、歴史ある工業高校です。機械科・電気科・電子科・工業化学科・繊維工業科・土木科・建築科・材料技術科・インテリア科・情報システム科の10科があり、生徒数は1,300名を誇ります(全日制1,200名、定時制100名)。
毎年180名を超える生徒がジュニアマイスター(※)の認定を受け、産業の根幹を担う優れたものづくりの人材を熊本県内、そして全国へと送り出しています。
スポーツも盛んで、特に春夏通算42回甲子園に出場している野球の強豪校として有名です。今夏、県代表として全国高校野球選手権に出場した勇姿も、記憶に新しいところです。粘り強いプレーの連続に、県民も大いに元気をもらいました!

そんな「熊本工業高等学校」は昨年、文部科学省からSPH(スーパー・プロフェッショナル・ハイスクール)に指定されました。しかも、熊本地震からの復興と深く関わりのあるテーマを掲げたとのこと…。その詳細を、担当の先生方が教えてくれました。

Interview

千場教諭写真

県立熊本工業高等学校
SPH研究主任

千場 博文教諭

復興と「ものづくり」は直結

平成28年(2016年)の熊本地震では、本校も大きな被害を受けました。第一体育館は屋上のトラスという部品が落ちて使えなくなり、建て替えて完成したのは昨年2月のことです。他にも実習棟を中心に施設・設備・機器や屋外のアスファルト舗装などが被害を受けました。さらに、最大1,200人もの方が本校に避難したため、自治会と生徒・教員が協力して避難所運営を行いました。この経験から、“学校・地域と連携し、災害に対応できる人材”を育成することが大切だと痛感しました。また、学校再開後、校内外でさまざまな復旧・復興作業が行われましたが、そのどれもが“ものづくり”と直結していると実感しました。

地震被災の様子(天井が落ちた家庭科室)

災害に対応できる人材育成を

SPHは、専門高校などが大学・研究機関・企業などと連携することにより、社会の第一線で活躍できる専門的職業人の育成を図る事業です。文部科学省より毎年10校前後が指定され、基本的に3年間認定されます。私たちは「産学官協働により災害対応型エンジニアを育成する教育プログラムの開発」を研究テーマに、平成28年(2016年)から応募準備を始めました。10科の中でも特に災害からの復旧・復興との関わりが強い「土木科・建築科・インテリア科」を中心に、今後いつどこで災害が起こっても対応できる人材を育成するためのカリキュラム作りを提案。2年後の平成30年度(2018年度)に指定されました。

学校訪問の際のSPHプレゼンテーションの様子

復興POINT平成30年(2018年)4月
九州の工業高校で初めてSPHに指定

平成30年度(2018年度)は全国から47校が応募し、その中でSPHに指定されたのはわずか8校。さらに8校のうち工業高校は「熊本工業高等学校」だけでした。また九州の工業高校では初めての指定です。熊本地震の経験を生かしながら、3年間で産学官協働により災害対応型のエンジニアを育成するための教育プログラムの開発に取り組んでいます。科別で見ると

が具体的な目標です。今年で採択2年目。それぞれの科で実際にどのようなカリキュラムに取り組んでいるのかを教えてもらいました。

Interview

猿渡教諭写真

県立熊本工業高等学校
土木科

猿渡 和博教諭

土木分野は道路や水道などのライフラインの復旧・復興に直結します。熊本県道路舗装協会に協力してもらい校内のアスファルト舗装作業を実際に行ったり、水道協会の人に水道管設備工事について話してもらったりと、現場に触れる機会を多く設けています。高校生で舗装の作業を行うなんて、普通の授業ではありえないことです。協会の協力がとてもありがたかったです。

校内での舗装実習の様子。高校生にとって貴重な機会!

また、空から被災状況の確認や測量を行うためにドローンの操縦技術を磨くなど、先端技術にも触れています。益城町と連携し、災害公営住宅で屋外の移動を楽にできるような階段作りにも取り組みました。さらに、九州横断自動車道延岡線大野川橋梁の工事現場での実習など、今まさに進む復旧・復興の現場に立ち会い、時にはコンサルタントの技術者の方々などと協働しながら学んでいます。土木分野で働いている方々は、熱い使命感を持って作業に当たっています。その取り組みを見て、生徒たちも学内だけでは得られない大きな刺激を受けているようです。

ドローンを自在に操る土木科の生徒


九州横断自動車道延岡線大野川橋梁の工事現場での実習の様子

Interview

本田教諭写真

県立熊本工業高等学校
建築科

本田 喜樹教諭

地震後、県内では多くの建物が解体、建て替え、補修などが行われています。市町村や企業の協力のもと、阿蘇神社や益城町の広崎八幡宮の復旧工事や宇土市営境目団地、桜町再開発ビルの工事現場を訪問したりと、現場を実際に見て学んでいます。

阿蘇神社の復旧現場訪問の様子


「阿蘇神社楼門」の10分の1スケールの模型制作にも取り組んでいます

また、地震被災を防ぐための耐震構造についても学んでいます。熊本県立大学から先生や学生を招いて講義を行ってもらったり、崇城大学主催の「つまようじタワー耐震コンテスト」に出場したりと、大学との連携で学びを深めています。さらに、材料試験場で実物大の壁の模型の耐震試験を行ったり、赤外線探知機を用いて鉄筋コンクリート構造の劣化現象と原因を調査診断する技術に触れる機会も。本校卒業生による出前授業では鉄筋の結束の実物を持ち込み、緩衝材である「耐震スリット」を実際に入れる実習も行いました。ここまでリアルな技術に触れられる機会は本当に貴重です。生徒が建築を学ぶ中で耐震への意識が高まっていると思います。

赤外線探知機による鉄筋コンクリート構造の劣化調査の実習の様子


実物を使った鉄筋・型枠実習の様子

Interview

山本教諭写真

県立熊本工業高等学校
インテリア科

山本 昌宏教諭

家の中の空間デザインや家具製作を学ぶ「インテリア科」では、災害発生後の避難生活をより快適にするための「避難所整備」「仮設住宅整備」「防災のための地域コミュニティ・まちづくり」に焦点を当てて学んでいます。熊本県室内装飾事業協同組合の協力のもと、被災者の心の痛みを和らげる壁紙を使った空間づくりを提案し、実際に教室に施工。さらに、益城町の災害公営住宅を訪問して、住民との交流やニーズの引き出しに取り組むなど、被災者やそのコミュニティに実際に触れながら学んでいます。

実際に生徒たちが施工した教室の壁紙


益城町・安永仮設住宅訪問の様子

また、防災で大事なことの1つが、いざというときに助け合える地域コミュニティの存在です。そこで、本校がある砂取校区9町内自治会の協力を得て、400世帯にアンケートを実施したり、ヒアリングを元にした防災MAPづくりに取り組んでいます。実はこれまでは、本校と地域住民との接点はそこまで多くはなかったのです。でもこの学びをきっかけに、地域の回覧板にも我々の話題を載せていただくなど、良いつながりが生まれています。防災のためには “地域密着型のものづくり”が大事であるということを、生徒も教員も実感していますね。

自治体での餅つきにも参加。この杵はインテリア科の生徒が作成したものを寄贈

SPHとしてのカリキュラムも折り返し地点。「産学官連携」の学びが生徒に多くの刺激を与えていることを実感しています。工業高校で学ぶことの大半は基礎知識の学習や基礎実習で占められます。しかし、SPHのカリキュラムでは実際の技術や現場に触れる機会が多く、自分が学んでいることが“どう社会に生かされるか“まで見えるのが、大きな刺激になっているようです。地元で働きたい、こういう会社で働きたい、という生徒たちのキャリアプランニングにも効を奏しているように思います。

伝統木造工法を学んでいる様子

研究成果をポスターセッションで発表する建築科の生徒

地震に限らず豪雨や台風など各地で災害が頻発しています。いつどこで、どんな災害が起こるか分からない状況です。本校では毎年約400名の卒業生を送り出していますが、彼らが「災害対応型エンジニア」として県内や全国に飛び出すことで、防災や復旧・復興の大きな力になれるかもしれません。そんな本校生徒の活躍を願いながら、最終的には全国の高校で「災害対応型エンジニア」育成をできるような教育プログラムの確立に努めていきたいです。

Data

熊本県立熊本工業高等学校

  • 熊本県熊本市中央区上京塚町5-1
  • 電話番号:096-383-2105
Official Website
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